東急

社内起業家座談会 事業を育てる制度は、人を育てるためにある。

新規事業のアイデアを社内公募。採用されれば、発案者自身がプロジェクトリーダーとして実行していく「社内起業家育成制度」。2015年4月に制度が生まれてから、すでに4つの企画がビジネス化されました。なぜ応募したのか。なぜ採用されたのか。この制度は、企業と人に何をもたらすのか。実際に応募し、みごとにビジネス化を果たした2名の社員と、事業への伴走を務める事務局スタッフが語り合います。

野﨑 大裕
事業開発室 プロジェクト推進部
イノベーション推進課 主事
2010年入社
本制度の第1号案件として、会員制サテライトシェアオフィス事業「NewWork」を事業化。働き方の多様化への関心の高まりを背景に、自宅近くや都心で便利に快適に執務できるオフィスを提供。2018年11月現在、全国で110ヵ所以上の利用ネットワークを築く。
片山 幹健
事業開発室プロジェクト推進部
イノベーション推進課
2013年入社
渋谷の街全体をメディアとして情報発信する「ROADCAST(ロードキャスト)」を事業化。住居や店舗などの未活用壁面を、同時展開するプロモーション手段として提供するというもので、街全体の活性化も期待されている。
梶浦 ゆみ
事業開発室プロジェクト推進部
イノベーション推進課課長補佐
2002年入社
都市創造本部にて10年ほど新規複合ビル開発のキャリアを積んだ後、イノベーション推進課で「社内起業家育成制度」を担当。審査にとどまらず、事業の伴走者として、社員の提案がよりよいものになるように支援を行っている。

はじまりは、業務中の気づきから。

梶浦:野﨑さんの「NewWork」が、この制度から生まれた事業の第1号。応募したのは、この制度ができてすぐでしたよね。

野﨑:そうですね。じつは、制度ができる前から社内起業には興味があったんです。東急株式会社という企業を基盤に、起業にチャレンジできるとしたらこんなにおいしい話はありません(笑)。何かできないかな、と先輩ともよく話していました。当時は不動産事業の営業をやっていたんですが、人が増えるたびにオフィスの移転を繰り返す企業をたくさん見てきました。とはいえ、いつも社員が席にいるわけではありません。だったらシェアオフィスという解決策はどうかな、と思いついたんです。いまどきネットはどこでもつながるし、デバイスも小さくなっているし、カフェで仕事することが当たり前になっていますよね。ただ、セキュリティの問題がどうしてもつきまとうのと、カフェを探す時間がけっこうムダだったりもします。それなら、安心して仕事できる社外のスペースを企業が社員に提供すればいいのでは、と考えました。コーヒー代もかかりませんから(笑)。既存のコワーキングスペースに「法人向け」「多店舗」というエッセンスを足して、新しいサービスとして応募しました。

梶浦:「働き方改革」の支援にもつながっていますが、タイミングとしては「NewWork」が世の中よりも先行したような気がしますが……

野﨑:「働き方改革」が盛んに言われるようになったのは、サービスが立ち上がって数か月後くらいなんです。すき間時間を活用することで生産性をあげたり、残業を減らしたり、という考えはありましたが、「働き方改革」という視点は正直なところなかったですね(笑)。それが今では、自宅近くの「NewWork」がテレワークに使われたり、子育て中の社員が長時間通勤から解放され、保育園のお迎えが楽になったりといった効果が出ています。

梶浦:時代とうまく噛み合ったということですね。片山さんは、なぜ応募をしたんですか?

片山:入社してちょっとした頃、グループの広告会社に出向しました。30人ほどの規模だったこともあって、自分で企画を立てて主体的に進めたり、新規事業の立ち上げに関わったりする機会に恵まれました。その面白さを知ったことが応募のきっかけですね。

梶浦:「ROADCAST」というアイデア自体のきっかけは?

片山:野﨑さんと似ていて、業務からの気づきですね。屋外広告を活用したプロモーションを提案していたんですが、「街をジャックしたい」というニーズがかなりあるのに、スペースの調整がつかずに実現できないケースが多かったんです。けれど街をよくよく見てみると、使われていない壁面だったり、狭小スペースだったりがあちこちにあります。そういうスペースをまとめて借り上げて、プロモーションメディアとして活用できないかと思いました。

野﨑:そのアイデアが評価されて、とんとん拍子に。

片山:いや、1回落ちてます(笑)。

野﨑:ああ(笑)。

片山:ほかの企画も入れると3回落ちてます(笑)。でも、面談でフィードバックを受けて、練り直すことで復活できました。おかげさまで3か月前から事業がスタートしていて、今はある企業さんと一緒に、ストリートアーティストの作品を街中に展示する「渋谷ストリートミュージアム」というプロモーションに取り組んでいます。

全員に会って、フィードバック。

梶浦:この制度の特徴は、グループ社員まで誰もが応募できることで、契約社員やアルバイトの方も対象です。一次審査はA4・1枚のエントリーシートのみで、手書きでもかまいません。実はこの制度の目的は事業をたくさん生み出すことではなくて、あくまでも「人材育成」なんです。落選された方全員に面談し、フィードバックさせていただくのもその目的があるからです。会話してみると、エントリーシートに表現されていないだけで、実はとてもおもしろい提案だと感じることも少なくないんですよ。

片山:僕もそのあたりは指摘を受けましたね。ちょうどスペースシェアリング事業が注目を浴び始めたころだったので、エントリーシートだけを見ると、流行に乗っかった提案だととらえられたのかもしれません。

梶浦:たとえば、ニュースから面白そうなネタを拾って体裁を整えただけだと、何がしたいのかが見えてこないということがあります。私たちが重視するのは、「本気でこれに取り組みたいんだ」という想い。片山さんの「ROADCAST」は、本当はちゃんと想いがあったのに、書類だけではそこをうまく汲み取ってあげられず、一度落選となってしまいました。

片山:おっしゃる通りです。ただ街の未利用スペースを広告に使うだけではなく、街づくりにつなげたいと想っていました。フィードバックを受けてその部分を深掘りすることで、街づくりを大きなテーマとしている東急株式会社が「ROADCAST」をやる意味もはっきりしました。面談でそれに気づけなかったら、リトライもなかったと思います。

ワイルドカードという、事務局の覚悟。

野﨑:この制度、競争率はどれくらいなんですか。

梶浦:応募数はトータルで160件くらいです。初年度が一番多くてだんだんと減ってきていますが、今もコンスタントに応募を頂いています。制度として定着してきたのかなと感じています。そのうち2割~3割が1次選考を通過していきます。

片山:選ぶほうも大変そうですね。

梶浦:採点基準はもちろんありますが、メンバーそれぞれ全く異なるバックグラウンドを持っているので、けっこう割れることも多いです(笑)。「この提案、私は絶対いけると思うのに、どうしてみんなの評価はこんなに低いんだ!」とか。だから“ワイルドカード制”を途中で作りました。点数だけなら落選してしまうけど、「社長プレゼンまで面倒を見ます!」というスタッフがいれば、その提案は2次選考に進むという仕組みです。私も使ったことあります(笑)。

片山:「ROADCAST」が2次に進めたのも、“ワイルドカード制”のおかげですね(笑)。

梶浦:でも、進んでからがハードだったでしょう。業務ときちんと両立させなければならない上に、検討事項がとても多いから。いざ検討を進めるうちに事業が成り立たないという結論に至るケースもあるし、本来の業務との業務バランスの関係で断念するケースだってあります。そういったハードルをクリアして、最終的に事業案としてまとまったものが社長プレゼンに進めます。これまで社長プレゼンに至ったのは7件で、そのうち4件が事業化されています。

野﨑:僕の場合、上司が応援してくれたおかげで時間の融通はつけやすかったですね。応募から社長プレゼンまで、たしか8か月ほどでした。サービスローンチを果たしたのは、そのさらに4、5か月後です。その間、収支はもちろん、ニーズの確かさ、競合業態との棲み分け、具体的なサービス設計、出店場所の選定など、事務局と一緒になって進めました。

片山:それ、かなり速いですよ。僕は2次選考に1年半もかかりましたから。社長プレゼンに行く前には専務にも見ていただいて、そのたびにいろんな指摘を受けました。「わざわざ新規事業にしなくても、既存の部署で進めればいいのでは?」など、議論は多かったですね。ひとつの事業を実現させるって、こんなに難しいんだと改めて実感しました。でも、そのプロセスがあったおかげで、提案に対する分析も深まったんじゃないかと思います。

ゴールは、人の中にある。

梶浦:事業を形にするのももちろん大切ですが、そこまでのプロセスを経験できることが、この制度のもっとも有意義な部分と考えています。事業案を検討した経験そのものが、ご本人にとって新しいキャリアの一要素となっていくからです。だから、一人でも多くの方に2次選考に進んでほしいと思っています。そのためにも、フィードバックには真摯に取り組み、次にチャレンジする意欲を持っていただくよう努めています。

野﨑:確かにそうですね。普段の仕事では、僕たちは大きな業務の一部を担当することになります。自分がすべてを決めなくても、誰かが判断して進めてくれたりもします。でも、自分で始めたこの事業は、自分だけで考えて判断しなければならない。自分が動かないかぎり、何も進みません。こんな経験ができることだけでも、すごく貴重だと思います。

梶浦:事務局としてやってみて実感したのは、東急株式会社にはポテンシャルの高い方がほんとうに多いということです。それに、事業が幅広いからこそ、新たな事業を起こすためのヒントもノウハウもたくさん眠っていると思います。忙しい業務の中でアンテナを張り続けるのは大変なことですが、ぜひ視野を広く持って、何か思いついたらこの制度を利用して自分のやりたいことを実現して頂きたいです。もちろん、これから入社する人にも。

※所属・業務内容は取材当時のものです。

事例紹介

01事業化第1号
「NewWork」
法人向けの会員制サテライトシェアオフィス。全国の駅近に100拠点以上というネットワークを持ち、会員企業の従業員はどこでも自由に使うことができる。場所や時間に縛られない新しい働き方を提案するとともに、通勤時間帯の混雑緩和などの効果も期待されている。
02事業化第2号
「YaQcel」
英語や中国語はもちろん、東南アジアで東急グループと親交のある現地企業と連携し、ベトナム語、インドネシア語、クメール語など11か国語に対応する翻訳・ローカライズサービス。文章や図表も齟齬なく変換し、日系企業の海外展開やインバウンド需要の増加に対応。
03事業化第3号「券売機での
キャッシュアウト・サービス」
東急線各駅の券売機で銀行預金を引き出せるサービス。あらかじめスマホアプリで金額を入力し、表示されたQRコードを券売機にかざすだけ。駅の利便性が向上するほか、ATMに比べて引き出しにかかる時間が大きく短縮される見込み。2019年度にサービス提供開始した。

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